快適な家づくりに欠かせない「断熱性能」「気密性能」「換気・空調(空気環境)」。ここではそのケーススタディーとして、新築から年が経過した自宅を、高性能住宅にリノベーションしたの後藤社長邸の実例を公開。ビフォーの問題点、アフターの工夫点や快適性など住み手と建築家の両方の目線を織り交ぜた、快適な家づくりへの工程を紹介しよう。
IKEHOUSE(株式会社池芳工務店)
代表取締役後藤和彦氏
当時、築24年(現在27年)。ちょうどリフォームのタイミングでもあった。敷地37坪、リフォーム延べ床面積33坪(111.8m²)夫婦+社会人の娘2人と同居だった。
□後藤さんは毎朝5時に起床するが、起き上がるのが辛かった。
□家全体が寒かった。
□夕方、帰宅しても寒かった。
□家の中でも外と同じように厚着していた。
□太田川沿いなので風が吹きっさらしの環境。体感温度が寒い地域。
せっかくリノベーションを行うならば、性能を上げて快適な家にしたい!
新築当時の断熱材はグラスウール厚み5cm。断熱層が薄いため外気の影響を受けやすかった。朝起きると吐く息が白いこともあった。
窓は単板タイプの窓ガラスであったため夏は暑い空気が入り、冬は冷たい空気の影響を受け、結露も発生していた。
床は当時一般的な仕様のフローリング材。冬は床下の冷気を受けやすく、素足だと冷たく、特に寒がりの奥様は足元から冷えてしまう状況だった。
特別な気密工事を行っておらず、すき間が多いため夏は暑く、冬はどこかのドアが開いているかのように寒かった。暖房効率も悪かった。
換気口は外気を直接取り込む当時の一般的なもの。外気の暑さ寒さをそのまま取り入れる仕組みだった。空調はエアコンを
使用。
住まいは太田川沿いの戸建て。川の影響を受けた冷たい風が吹き抜ける立地だ。子どもたちも含めて家族は全員仕事を持っており、冬は朝の起床や夕方仕事を終えて帰宅すると家が冷え切っていることもあった。
壁、屋根裏、床下に性能のいい断熱材・硬質ウレタンフォームを吹き付けた。その厚さは約15cm。家をすっぽり包み込んだので外気温の影響は少ない。
窓はすべて樹脂性サッシのペアガラスに変更した。樹脂性サッシは北欧や北米など寒い地域で普及しているもの。結露もなく、窓からの熱の移動も少ない。
基礎を補強して耐震性をアップ。また土間コンクリートを打設して床下の蓄熱効果を上げたとともに、断熱材を施すことによって床の冷たさを感じることがなくなった。
太陽光発電(10kw)を取り入れてZEH(ネット・ゼロ・エネルギー住宅)仕様に。屋根は瓦からガルバリウムに変更。外壁は既存のサイディングを塗り直し。
床はナラの無垢材、壁はウッドチップクロスに漆喰塗料を塗ったもの。アレルギー体質の子どもたちの部屋は、より体に優しい漆喰塗りにした。
給気と排気を機械で制御する第1種換気システム「澄家」と、半埋め込み式の空調機能を採用。床上、床下の両方を温め、床暖房のような暖かさを実現。
断熱性、耐震性など、住宅性能を上げるための工事を行った後藤邸。工事は既存の床や壁、天井をすべて剥がしたスケルトン状態にしてスタートさせた。そして床下や天井裏、壁には高性能の断熱材を施し、床材、壁材、そしてキッチンやバスルームなどの設備を一新。年間暮らした愛着のある家だったので、間取りを大幅に変えることはせず、以前の住まいの使い勝手をそのまま残しながら老後のことも考えてバリアフリーも取り入れた。
今回の工事で後藤社長が1番こだわったのが空調機器をリビングの床に埋め込んだ新しいシステムだ。これは床下と室内を同時に暖めたり冷やしたりして快適な室温が保たれるもので、特に冬に足元が暖かく家族に好評なのだそう。
断熱気密工事完了後に気密測定を実施。室内の空気を外に排出し気圧の力を利用して計測する仕組みだ
樹脂性ペアガラス、床、壁を一新し、キッチンも新しくした対面式のLDK。今では暖かくて奥様も喜んでいるそう
Before
外壁は既存のサイディングを塗り直した。鮮やかなブルーグリーンが目を引く
主寝室の奥に奥様専用のウォークインクロゼットを新設。着物も収納できる
2階にある2人の娘さんの部屋。アレルギー体質であるためこの部屋だけ漆喰塗りに
27年前、後藤社長自らが設計した私邸。リノベーションから3年経った現在、とても暖かく快適に暮らしているよう。リノベーションでは基本的な間取りはほとんど変えていない。変えたのは2階の主寝室に奥様専用のウォークインクロゼットを設置したこと、将来寝室に上がれなくなったときのことを考えて、1階和室を洋室に変えたこと、2階のホールに家族共用の本棚を造作したくらいだ。
また断熱性・気密性を上げたおかげでリビングに置いた埋め込み型エアコン1つだけで家中が暖かいのだとか。特に社長以外の家族が女性ばかりの後藤家にとって、とても喜ばれているそう。「これから年を重ねていくのですから、体に優しい家でないと」と後藤社長は話していた。
室温と健康は密接に関係しています。寒い家は血圧が不安定になり、心臓や脳の病気へのリスクがあります。暖かい部屋で過ごすことはすなわち健康への第一歩なんですよ。
◎玄関を開けた瞬間から暖かい。
◎家族が明るくなり、家の中でよく動くようになった。
◎暖かいので体がラク。特に起きたばかりの早朝に寒さを感じないのはとてもうれしい。
◎くつろいで安らげる家になった。
築年数、予算、既存の家に対する愛着にもよりますが、築20年過ぎならリフォームした方がいいケースが多いですね。40年以上だと建物の状態を総合的に考えて、建て替えた方がいいと思います。それと「自分たちはいつかは歳をとる」ということを考えることも大切。20年後、30年後の体力、家族構成、地域のことなどを想定して、間取りや素材、断熱を考えましょう。
建物全体の性能を上げなければ熱効率が悪くなります。部分的にするのではなく、家の体積に合わせた断熱性、気密性を上げて、空調と換気の組み合わせによって住宅性能を上げることが大切です。
間取りを変えるだけより、このように性能を向上させるためにお金をかけた方が、長い目で見るといいのではないでしょうか。またそうした知識と技術のある工務店を選ぶことも重要です。
この実例の住宅性能を目指すフルリノベーションで坪50万円が相場です。一般的な延べ床面積30坪の家ですと、1,500万円ほどかかると思っていいでしょう。ちなみに同じ条件で新築の家を建てるとなると2,000万円以上はかかることを知っておきましょう。我が家のリノベーションは1,500万円相当と太陽光発電に200万円かけました。ちなみに工期は約3カ月でした。
実家や古民家などを「残しておきたい」と思う方も多く、当社でも「新築か、リノベーションか」というのは1番多い質問ですね。迷われて当然だと思います。もちろん性能的には新築の方がいいのですが、我が家のように住み慣れた家への思いや使い勝手、家の状態、予算によってはリノベーションでいいと思います。それでも十分住宅性能は上がりますし、さらに30年くらいは家の寿命の伸びるはずです。
例えば高齢者がいる家であれば、平屋的に住むことを前提にして1階だけの性能を上げることはできます。
その際、ヒートショックの予防として脱衣室(洗面室)、バスルームの断熱性能を重点的に高めたいものです。
また窓だけをペアガラスやインナーサッシに変えるという方法もありますが、やらないよりマシというレベルなので、やはりフルリノベーションが理想的です。
家の性能は家族の健康や光熱費などにも響くもの。また住まいが快適になると家族の笑顔が増えることは間違いありません。自然
素材を使った快適空間を目指しましょう。
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