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木造建築を担う 広島の大工たち

 

木の家を建てる上で欠かすことのできない職人の一人「大工」。彼らは日々、鍛練した技術を現場で遺憾なく発揮している。30〜40代の年代も職人歴も違う、5人の大工たちに木造建築に対する思いや、彼ら自身のストーリーを聞いてみると木の家づくりに対する思いが、より一層深まってきた。

 

 

現場で求めるのは迅速で美しい仕上がり大工育成にも貢献を

大工歴30年 片桐 好兼(48)

 

手に職を付けることを父から勧められた片桐さんは高校卒業後、橋本建設に入社。5年間社員大工として技術と知識を身に付け、更に3年間親方のもとに勤め、人格的、技術的にも認められて棟梁に。同社の専属大工となった今も、「片桐さんの仕事はきれい」と評判はすこぶる高い。 
 天井を全面的にあらわしにするなど、大工の高い技術が特に必要とされる現場では、手刻みが主流の頃から技術を磨いた片桐さんのような大工仕事が不可欠。「ごまかしの一切利かない仕事。だからこそやりがいがある」という片桐さんの言葉は実に頼もしい。
 構造材などの木材は、別の作業場で図面を読み取りながら加工したものを搬入するが「加工が間違っていないか、現場でちゃんと組み上がるかどうか、毎回ドキドキする」と片桐さん。迅速できれいな仕上がりを求め、効率良く動くための動線や段取りも考えて仕事を進めるという。
 時には一緒に仕事をすることもあるという年下の大工に対しては、後輩のような感覚で接していると言う片桐さん。「最初はある程度本人に任せて、たとえ間違っていても頭から否定はせず『こういうやり方もあるよ』という言い方で教える」というのが片桐さんのスタンスであり、そこには次の時代を担う大工を現場で育てようとする意思と、技術継承の願いが垣間見える。

 

 

 

技術の確かさが光る、美しいあらわしの天井

 


かつて棟梁から譲り受けたノミなど、長年使い込んだ道具の数々。常に手入れが行き届いた刃先には光が宿り、道具を大切に使っていることをうかがわせる

 

 

 

手刻みを経験して技術力と対応力が向上 報交換も積極的に 

大工歴30年 菅 成樹氏(48)

 

 大工だった父親を見て育ち、もの作りが好きだった菅さんは、「自分の腕一本で家を建てる父の姿が格好いいと思っていた」と、中学・高校時代にはすでに父親の現場を手伝いに行っていた。
 工業系の高校を卒業後、父親と仕事をすることになりIKEHOUSEの専属大工となったが、当時は現在汎用されているプレカットの木材はなく手刻みが主流の時代。電動工具も少なく、構造材から自らの手で刻んでいく手仕事が多いのが普通だった。その経験があったおかげで大工としての技術力や対応力も上がったという。「新築以上に、リフォームの現場だと特に手仕事が求められるので、手刻みの時代を経験しておいてよかった」と菅さん。
 自邸も自らの手で手掛けたそうで、「大工仕事以外の打ち合わせと調整が思った以上に大変で、大工に専念できる仕事環境のありがたさを感じた」と苦笑する。
 大工歴30年になるが、「家は高い買い物。お客様により良く住んでもらえるよう、他の大工とも情報交換を積極的にしながら新しい知識や技術を吸収したい」と、大工の仕事に対して貪欲に取り組む菅さん。
 時代とともに住宅の仕様も変化していくため、建材や機械の知識をアップデートしていく必要性も常に感じ、向上心を抱きながら今日も現場で腕を振るい続ける。

 

 

 

注文住宅を手掛けるIKEHOUSEの現場は、図面を見て「すごいな」と感じることも多くやりがいがあるという

 

 

大工仕事に欠かせない仕事道具を入れておくバッグ。ノミは専用の革袋に入れておく

 

 

高い技術と深い心遣い両方を併せ持つ仕事でお客様に喜ばれたい

大工歴23年 小園 貴弘氏(42)

 

 工務店を営んでいた父親が知人の大工に家を建ててもらった幼少期の感動から、「大工になって自分の家を建てたい」と考えた小園さんは、職業訓練校を経て父親とは別の工務店に入社。その後独立し、複数の棟梁の下で大工の経験を積んでいたところ、幼なじみだった旭ホームズの名藤さんから「一緒に仕事をしたい」と声をかけられ、同社の専属大工になった。
 性能測定をしても、求められる基準値を確実に達成する確かな仕事ぶりは、名藤さんからもお墨付きだ。 「現場での仕事はできて当たり前で、さらなる+αが大切」というのが小園さんの考え。その+αが、施主に対する深い気遣いだ。例えば、最終的に壁で覆われて見えなくなる柱に、現場作業に必要なものを取り付けるため釘を打つのは一般的だが、「工事中に釘が打たれた柱を見て嫌な気持ちになるお施主様もいる。見えない部分も最大限傷を付けないようにして、自分も気持ち良く仕事がしたい」と小園さん。
 職人同士が集まるコミュニティーをつくり、その中でお施主様からのクレームなどを情報共有してきた結果、そうした心がけにつながったのだ。

 「大工の仕事を通して人間的にも成長していきたい」と小園さんは今後を見据える。

 

 

小園さん(左)と幼なじみでもある旭ホームズの名藤さん(右)

 

 

手刻み仕事の現場で玄関の框を作るにあたり、通常はビスを打って材を繋ぐが、小園さんは経年によるひずみが少ない「車知栓(しゃちせん)」という伝統的技法を選択

 

 

性能の高い家づくりに大工として尽力し我が子に誇れる仕事を

大工歴10年 平原 脩一郎氏(39)

 

会社員時代を経て10年前に大工の父親の元に弟子入りした平原さん。お客様と直接話して思いを形にする注文住宅を主に受注する建築会社の専属大工に。そこで数多く携わった高気密高断熱住宅の建築に魅力を感じた平原さんは現在、同じく住宅性能の高い家づくりを実践している大喜で専属大工を務める。
 「優れた断熱性能のデコスドライ工法を多く採用するなど、大喜が建てる家は今まで請け負った会社の中で最も高性能」と平原さん。
 吸放湿性をもつ無垢材を多く使う大喜の家で高気密高断熱住宅の性能を実現するには困難が伴うが、平原さんの知識と技術、これまでの経験が存分に生かされ、性能で求められる数値も確実にクリア。
 現場を見に来た施主とのコミュニケーションも大切にし、施主の思いを汲んだ家づくりを心掛けているという。
 「お客様から『平原さんで良かった』と言われたときが一番うれしい」と、施主からの評価が大きなモチベーションに。一生に一度あるかないかの大きな買い物に携われる大工としての仕事のやりがいとともに、「形に残る仕事であり、我が子に対しても自分が手がけたと胸を張って言える」という誇らしさもまた、平原さんの仕事を支えている。

 

 

 

父親が長年使い込んだ金づちもサビを落としてピカピカになるまで磨き上げた

 

 

古くなった道具はサビを落とし、打ち付けた凹みで質感と表情に変化を持たせたデザインに。道具にも独自のこだわりを反映

 

 

 

建築に関わる同志と知識や技術を共有して補い合い高め合いたい

大工歴20年 谷本 信志氏(38)

 

谷本さんは「大工って『楽しそう、カッコイイ』と思ってもらい、大工になりたい子を増やしたい」との思いから、家をつくっていく過程をドローンで撮影した映像や、上棟式で楽しそうな職人の様子などをYouTubeやSNSで発信するなど積極的に新しい試みを行っている。
 さらに、大工仲間はもちろん、設計士や大学教授ら県内外の仲間ともLINEでグループを作り、知識や技術を共有。「一人では限界があるので、こうやって仲間意識を持つことでアドバイスをし合い、お互いの足りない部分を補い合う。広島に限らず広域から得られるものも大きい」と谷本さん。
 仕事の請負先の一つである高橋工務店の高橋社長からも新しい工法や建材などの知識を得、地域全体でのレベルアップを図りたいという。
 家づくりの現場における谷本さんのモットーは「子どもが楽しく遊べるような仕掛けや仕組みを家の中のどこかに1つつくること」。例えば、子どもの目線の高さに釘を打つ際にはキャラクターの形になるように打つ、というのもその一つ。
 「喜んでもらって愛着を感じてもらい、親子の笑顔をつないでいける家をこれからも手がけていきたい」とその思いを教えてくれた。

 

 

 

YouTubeには棟上げの様子をアップ「たにもとのいえ 棟上げ」で検索を

 

 

新しい知識と技術を積極的に取り入れた家づくりを行っている高橋工務店の高橋社長(左)も、志を高くもって仕事に向き合う谷本さんに対する期待は大きい

 

 

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