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これからの住まい

これからの住まい2020年~2030年に向けて

 

空き家率の増加、平均所得の減少、新築着工数の減少、エネルギー問題や環境問題……。世の中を取り巻く社会構造や文化の変化により、時代により求められる住まいの条件も変わってきます。これまでの日本の住宅の歴史を振り返りながら、「これからの住まい」に必要なことを考えてみましょう。

 

 

 

一般社団法人広島県工務店協会会長

河井 英勝

橋本建設株式会社取締役会長。工務店の全国ネットワークである一般社団法人JBN理事も務める。長期優良住宅の普及や地域型住宅ブランド化事業および地域型住宅グリーン化事業の推進とともに、広島県工務店協会会員工務店の技術向上を図るべく、建築士や大工の講習なども実施。地域工務店の必要性を訴えながら地域貢献をめざし、職人の育成にも力を入れている。

 

 

 

時代に求められて量産した日本の住宅

 

これからの住まいについてお話する前に日本における住宅の現状を振り返っておきますと、歴史上残っている記録では(西暦1000年頃から)平安、鎌倉、室町、江戸を経て明治維新を迎え明治、大正、昭和時代半ばの1945年(太平洋戦争終戦)を迎えるまで1千年余り、日本の住まいは、ほぼ百パーセント地域の木材を構造材料とした木造住宅でした。 平安から戦後を迎えるまで、日本人は地域の木材を生活の中心として衣食住すべてに活用して生きてきた民族です。しかし、戦争により住宅は焼き尽くされ、その後の戦後復興のため日本の国内で、地方から都市へと人口移動が起きました。 また、家族の分散、核家族化など家族構成の変化もありまして、世界にも例がないほどの住宅不足が50年もの長い間続きました。 住宅戸数の不足は戦後のベビーブームなども原因の一部でしたが、一番大きな要因は近年130年の間に起きた爆発的な人口増加だと思います。

 

明治の初め(1,868年)3千3百万人余りだった人口が2000年には1億2千万人を超えました。わずか130年の間に3.9倍に膨れ上がった人口増加に対応するには今までの住宅供給システムでは到底、間に合わせることが出来ませんでした。 国は住宅増産のための5ヵ年計画(※1)を8期連続して40年間続けまして、住宅戸数の確保に努めました。 これらの事情を背景に住宅ビジネスは拡大成長を遂げ、マンション事業や量産型の工場生産住宅が普及し、実にさまざまな材料や工法で住宅が生産されました。その結果、「スクラップアンドビルド」と言われるように新築、解体を繰り返し極端に住宅寿命が短いのが日本の住宅の特徴だと言われております。

 

 

日本の環境条件に適した住宅とはどのようなものか、深く検証することなく需要に任せて、住宅を作り続けてきた結果だと皆が反省しなければならないでしょう。 つい最近まで造られてきた住宅は、とりあえず屋根、壁があり「雨露凌げれば大満足」それ以上の贅沢は言わないという時代が約50年間続いていたわけです。 その間、住宅ビジネスはどんどん拡大して、ハウスメーカーなる大企業が誕生し、日本の住宅生産企業が世界のトップに君臨する現象が生まれております。 おかげで現在、日本の住宅は生産過剰から戸数が余り始め、現在では空家が8百万戸も出る、超過剰状態にあります。戸数確保のための5ヵ年計画政策が終了したのは2004年(平成16年)ですから日本の人口がピークを迎え、減少に転じたのと時を同じくして、住生活基本法(※2)が2006年(平成18年)に制定され「量より質へ」と住宅政策は大転換します。 一方で阪神淡路大震災をきっかけに、姉歯事件(※3)などを教訓として建築物の耐震性を強化する法律制定がなされ、住宅でも耐震性の強化整備が進んできました。 また、住宅戸数の供給が落ち着いたことにより業界も住環境の向上に目を向けることができるようになりました。「日本の家は夏に暑く冬に寒い」などの問題を抱えていることが浮彫りになり、住宅外皮(屋根と外壁・開口部及び床下)の断熱性能アップに対する要求が大きくなり様々な断熱工法などが開発されるようになりました。断熱・気密を強化するには空気環境や通気機能、湿度のコントロール性能まで一体で考える必要があります。

 

住環境はこのようにしならなければならない、との方向は示せても、それを具現化する断熱工法は「この工法が最善である」という確立された材料や技術は固まっておらず、この分野は発展途上にあります。 平成18年から「長期優良住宅の普及促進に関する法律」なども制定されました。理想的な住環境を実現するための品質を定めて、生産・普及させるために高耐震、高断熱、などの機能を備えた質の高い住宅に補助金を与える事業が行われております。私たちも、これから住宅の高品質化は長期優良住宅などを手本にして普及してまいります。

 

※1)住宅増産のための5ヵ年計画戦後の住宅難の中で公営住宅、公団住宅の整備、住宅金融公庫の設立を主軸に住宅供給の政策が進められてきたが、著しい人口の都市集中や世帯の細分化などにより、住宅需要は増大の一途をたどり、昭和40年代に入っても厳しい住宅事情が続いた。このため、住宅対策を一段と強化するために、政府及び地方公共団体による住宅供給はもちろん、民間による建設を含む一体的な住宅建設計画「住宅建設計画法」が1966(昭和41)年に制定された。

 

※2)住生活基本法国民に安全かつ安心な住宅を十分に供給するための住宅政策の指針となる日本の法律。良質な住宅ストックの形成や良好な居住環境、住宅市場の環境整備などが方針として掲げられている。(※3)姉歯事件…20051117日に国土交通省が、千葉県にあった建築設計事務所の姉歯元一級建築士が、地震などに対する安全性の計算を記した構造計算書を偽造していたことを公表したことに始まる一連の事件である。耐震偽装問題とも呼ばれる

 

 

 

現在が日本の住宅史最大の転換期にある

 

このように日本の住宅の歴史・変遷をざっと振り返ってみますと、過去1千年の間は木造でのみ造られてきた住宅が1945年(昭和20年)から流動化して、わずか70年の間に実に多くの工法が取り入れられ様々な住宅が氾濫しておりますが、ここに来て日本の気候風土に適した住宅は木造が一番であるとの見直しが行われ、定着しつつあります。試行錯誤しながら結局、元の木造住宅で高性能化を目指すことが一番理に叶っていたことになります。 さらに最近、にわかに機能性や安全性、環境配慮、省エネ性などが要求 されるようになってきましたので、現在がまさに、日本の住宅史上最大の転換期にあると言えるでしょう。したがいまして私たち住宅生産者は日々、技術の向上に努めなければならないわけです。

 

 

日本人の平均寿命は80才を超える時代に入ってきておりますが、長寿命世界に入った日本の住宅事情は、より安全で安心して生活をすることが出来るニーズが基本になってくると思います。 地球的規模で考えますと、現在地球上に70億人の人類が生活しており、2050年には100億人になるという予想もされております。人類学者は地球上に人類が生存できる上限は100億人だとの説を唱えておりますが、それは食料と水とエネルギーがまんべんなく供給出来た場合の予想ですから、実際にはもうすぐ人類も人口増加が止まり、高齢化、少子化が各国で起きてくることは確実のようです。 その観点で見ますと日本は高齢化、少子化時代に入り急激な人口減少が始まっている国ですから世界最先端を走っている国と言えます。

 

食糧問題はさておき、エネルギー問題では原油が最大のエネルギーで、枯渇が心配されていましたが最近シェールガス掘削工法が開発されたことで当面、原油枯渇の心配はなくなったと言われており、現在これだけ円安なのにガソリン価格が上がらないのはそのためのようです。 一方で原子力発電によるエネルギー問題があります。この問題は諸説ありますし、結論は出ておりませんので何も申しませんが、私達日本人は原子爆弾を落とされ、実験にされた屈辱的な民族であるだけに、また、過去核に関わった科学者がただの1人も天寿を全うしていない事実があり、私、個人的には孫子の代までに止めるべきエネルギーで人類と共存できないエネルギーだと考えております。そのことからも住生活で省エネルギーに努めなければならないと考えております。 世界で一番深刻なのは水だと言われていますが幸い日本は水に恵まれすぎるほど恵まれております。飲み水も洗濯水もトイレの水洗水も現在は全て飲める水(上水)を使用していますので、上水の節水に努めて行かなければならないでしょう。水栓器具や水洗水も節水型が標準化してきます。

 

 

 

地域型住宅グリーン化事業

地域材等資材供給から設計・施工に至るまでの関連事業者が緊密な連携体制を構築し、地域資源を活用して地域の気候・風土にあった良質で特徴的な「地域型住宅」の供給に取り組むことを支援する事業。地域における木造住宅生産・維持管理体制を強化し、環境負荷の低減を図り、省エネルギー性能や耐久性などに優れた木造住宅・建築物の供給を促進することにより、地域の中小住宅生産者等が供給する住宅に関する消費者の信頼性の向上、住宅・建築物の省エネルギー化に向けた技術力の向上を目指しています。

 

地域経済の活性化および持続的発展、地域の住文化の継承及び街並みの整備、木材自給率の向上による森林・林業の再生等に寄与することを目的としています。 このため、この事業では、中小住宅生産者などが他の中小住宅生産者や木材供給、建材流通などの関連事業者とともに構築したグループを公募し、グループ毎に定められた共通ルールなどの取り組みが良好なものを国土交通省が採択します。採択されたグループに所属する中小住宅生産者が当該共通ルールなどに基づく木造住宅・建築物の建設を行う場合、その費用の一部を予算の範囲内において補助する、というものです。

 

補助金の上限

1.長寿命型(長期優良住宅):100万円/戸

2,高度省エネ型(認定低炭素住宅):100万円/戸

3.高度省エネ型(ゼロ・エネルギー住宅):165万円/戸

4.優良建築物型(認定低炭素等の一定の良質な建築物):1㎡につき1万円を上限

 

※13については主要構造材(柱・梁・桁・土台)の過半に「地域材」を使用する場合、20万円を上限に予算の範囲内で加算します。

 

一般社団法人広島県工務店協会も、公募グループの1つを担っており、採択を受けています。

 

 

生活のキーワードは食料と水とエネルギー

日本の住まいが2020年、2030年にはこれらをより細かく具現化し義務化された規制によって新築され、増改築されて行くと考えられます。 平成18年に制定された住生活基本法は住宅の憲法ですから、この法律を基本に国がリードして日本の住生活を変えていくことになりますので、確実に方向性が見えてまいります。 前述の通り生活のキーワードは食料と水とエネルギーですが我々日本人が幸せに生活するための住宅の条件は、もっと具体的に「高齢者でも健康を維持しながら、環境にやさしく、エネルギー消費が少ない上、家族が幸せに安全に安心して暮らせる住宅」ということになります。

 

特に日本が特徴的なのは、ご存知の通り高齢化社会を迎え、医療費が年々増え続けていることです、膨大な医療費を抑制するための手立てが急務です。手段としては介護老人を収容する施設の増産もさることながら、介護老人を増やさないための住宅政策が急務になってまいります。昨年スタートしたスマートウェルネス事業はまさにこのための住宅政策です。

 

「脳梗塞や心筋梗塞など循環器系の疾患で介護を必要とする高齢者を増やさない住まいのあり方」としてスマートウェルネスビジネスが脚光を浴びております。

 

高齢者が健康で介護を必要としない自宅での生活を維持するためには室内の温度差がない住宅が効果的なことは医学会から提唱されておりますので、急速に屋根、外壁、開口部、床下などの外周部をすっぽり覆う断熱工法が標準化され義務化に向かうでしょう。 新築だけでなく既存住宅もこれらの室内環境を整備することで脳梗塞などの予防になるなら住宅を断熱改修するために費用補助するのと介護医療費を支出するのと比較し、国は方向を決めてくると考えられます。 どちらにしましても、健康でいつまでも自宅で生活したいという庶民の希望を叶え、介護老人にならないためには、住宅の断熱化が必要不可欠です。 結論としまして、現在国土交通省が打ち出している地域型住宅グリーン化事業はまさにその方向性を示しております。

 

今後、日本の住宅は国を挙げて住宅の断熱化、省エネルギー化、もっと進んでエネルギー生産型住宅に向かっていくでしょう。

 

 

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