家族が、風が、地域が、家の中でひとつに結ばれる
ダイニング&キッチン
作業台を兼ねた収納カウンターを設け、収納力と家事効率をアップさせたキッチン。窓の向こうの景色を見ながら炊事や食事をすることができる。キッチンをデッキ沿いに設けることでBBQやパーティも簡単に。家族や近所との交流の場としても活躍しそう
作業スペース
ダイニングとは別に設けたテーブルは子どもたちの勉強場所、趣味やホームパーティ時にも使える
ファミリークロゼット
階段と洗面室の横のスペースに設けた2帖ほどのファミリークロゼット。家事室としても活用
パントリー
キッチン横にはセミオープンタイプのパントリー。散らかりやすいキッチンまわりもスッキリ
ここは安芸高田市吉田町。しおた工務店が手がける区画の住宅が並ぶオレンジタウンだ。この一角にモデルハウス「つながりの家」が完成した。この家は広島大学大学院で建築学を専攻する学生と、しおた工務店がコラボレーションをした住宅。「次世代が住みたい家」をテーマに学生たちが設計図を持ち寄り、ディスカッションを重ねて、厳選したプランがこうして実際の家としてカタチになった。
企画のきっかけは今から2年前に始まった。広島大学の角倉英明先生と、しおた工務店の塩田崇社長とが「建築を学ぶ学生たちと工務店がコラボをしてみると面白いのでは」と話したことが発端だった。
角倉先生は学生たちにこの企画を持ち帰り、学生たちがプランニング。いくつかのプランの中から最終的に採用されたのは修士2年の松下健祐さん(歳)が設計した「つながりの家」だった。「このプランは地域住民とのつながり、家族のつながり、空間的なつながりを意識しました」と松下さん。暮らす人同士がつながっていくための、アイデアが満載の住まいが完成した。
こうして完成した家に実際に足を運んだ学生たちは、自分たちのアイデアが「カタチ」になったことへの喜びにあふれていた。
清々しい木の香りに包まれた2階リビング
2階リビンク
2階のリビングと子ども部屋を一体にした吹き抜けの空間。子どもの成長に伴い仕切ったり、リビングを拡張したりとフリースペース的に利用できる空間だ。床材は無垢のスギ。表面は浮造り加工をされており、足の裏の感覚が心地良い。採光、通風も抜群のパッシブデザイン
土間
玄関には広めの土間を設けた。自転車の手入れをしたり、洗濯物を干したりとフレキシブルに活用できる。動線を考えて洗濯機も設置
吹き抜け
子ども部屋は吹き抜けになっており、覗き込むとキッチンでお母さんが炊事をする様子が見える。親子のコミュニケーションもバッチリ
外観
田畑に囲まれた地域。日本の原風景を残すために屋根を切妻にした。周囲の風景に溶け込ませ、なおかつモダンな印象になった
ウッドデッキ
通りに面してウッドデッキを設けたのは地域の人とのコミュニケーションの場になってほしいという思いから。室内と屋外をつなげる心地良い場所
学生10人でアイデア出しをした。そのうちL字の間取りが採用され「つながりの家」と名付けられた。それから4カ月の間、学生としおた工務店によって動線や収納などを検討し、現在の形が完成。「何度も間取りを書き換えては『暮らしやすくない』、あるいは『建設コストがかかる』とアドバイスを受けました」と松下さん。実際に住む人、特に主婦の目線が大切であると感じたようだ。「高断熱高気密、光や風を取り入れるパッシブデザイン、耐震など専門的分野はプロとして担保しました」としおた工務店の塩田社長。
当初は里山で在宅勤務をする夫婦をイメージ。地域コニュニティーが広がるように角地の利点を生かしたプランを製作
L字を維持したまま平屋のような図面をつくり直した。「暮らし方に楽しみがあった方が良い」と助言を受け、再検討。
印象的な土間使い、ウッドデッキや「つながりデッキ」など目的やアイデアが充実したプラン。ようやく方向性が確定した。
設計をするにあたり、当たり前のことですが予算を考えなければならないということが新鮮でした。予算やスペースなどに制限があるからこそプロとしてのアイデアや経験値が大切。
広島大学大学院 松下健祐さん
住まいは冬に快適であることが大切。特に県北地方は断熱性や気密性が求められます。そういう意味でこの家は家族がずっと健康で、つながりの持てる住まいになったと思います。
しおた工務店塩田崇社長
しおた工務店塩田崇社長
広島大学大学院工学研究科建築学専攻准教授
角倉英明先生
知識とエネルギー、感性や熱意。
学生はプロから、プロは学生から、互いに影響を受け合い、刺激を与え合った。「『暮らす』とはどういうことか」。改めて考える機会になった。
角倉先生と塩田社長が知り合ったのは工務店が集まるセミナー会場だった。「地元の工務店と大学が手を組んだら面白いことができるのでは」と建築に関わる者同士で夢を語り合ったのだという。しおた工務店が分譲するこのオレンジタウンならそれが実現できるのではと提案し、角倉先生が大学に持ち帰って学生たちにこのプランを告げた。「建築を志す者にとって、住宅づくりを1から100まで知る機会は貴重と思いました。経験を経ることで学生たちの自信になることは間違いないですからね」と角倉先生。「さらに地域にある工務店は営業、設計、施工、管理、メンテナンスを全て自社でできる。企業としてその高い技術と能力を、身をもって知ることができる良いチャンスだと思いました」と話す。
「『つながり』というコンセプトがしっかりとしていたことに、まず驚きました。家族や地域のつながりの大切さを学生たちが感じているということがうれしかった。私たちも地域に密着、貢献できる工務店でありたい」と塩田社長。お互いに刺激の多いスタートだったようだ。
学生たちはこれまで製図など机上の研究はしてきたが、設計・施工の現場に立ち会うことはほぼ初めて。「設計の勉強はしてきても、例えば壁や柱の素材や、内装、外装といったことまでイメージすることは今までありませんでした」と松下さん。また住まいとは地域や家族とのコミュニケーションの場であること、キッチンを中心とした家事動線を考えることも新鮮だったという。自分がこの家の主婦だったら、子どもだったらと想像を膨らませることも多かったという。「最終的な図面はしおたさんに仕上げていただきました。ここでも電気配線や造作家具のサイズなど、自分たちでは気づかない細やかな作業や住み心地へのこだわりなど、プロの仕事に感動しました」と松下さんは話す。こうして「つながりの家」の図面は完成した。
そうして実際に家が建ち始めた。基礎、柱、梁が建ち少しずつ家の形があらわになる。「時々、工事の現場にお邪魔したんですが、自分たちが考えていたプランが少しずつ形になっていくこと、職人さんの仕事に感動。ものづくりの喜びも感じました」とも言葉を重ねていた。
「営業、設計、施工、管理、メンテナンス......。工務店は建築に関わる全てを行っています。学生はどうしても大手の建設会社や住宅メーカーに目が行きがちなんですが、こうした地域の工務店の高い能力や技術にもっと関心を持ってほしい。また、こういう地域の工務店による戸建て住宅はその町の風景をつくる役割もある。この『つながりの家』も、安芸高田市の風景をつくる一役を担うことができたと思います」と角倉先生。
塩田社長も学生たちの一生懸命な姿、学ぶ姿勢に感心したという。「自分のアイデアをプレゼンテーションするのが上手。私たちも学ぶ点はたくさんありました。将来、自分が働く場として工務店にも興味を持ってほしいな」と話していた。
採用にはならなかったものの、学生たちが考えたいくつかのプランには斬新かつ、興味深いアイデアが潜んでいる。次世代が考えたこれからの住まい。3つのプランを見てみよう。
家の2階のまわりを1周できるように回廊式の縁側を設けたアイデア。このテラスがあることによって自然に囲まれたこの辺りの開放的な景色を楽しみつつ、外と内をつなげる役割を持つ。
家族とのつながり、地域とのつながりを意識し、「共有」と「プライベート」を併せ持つ空間に。1階の土間横の板の間は地域の人とのコミュニティスペースに活用するアイデア。
靴を脱がないので人が来やすい、土間があり遊びやすい、離れを設けて泊まりやすいなど、人が集まりやすい家を考え、個室と共有スペースを明確にした。日本の原風景を残すため、入母屋屋根を採用。