技術を磨き続ける一級技能士の職人たち
木造建築物の大工工事において必要な技能を備えた職人であることを検定試験を経て公的に認定する資格が「建築大工技能士」。その最難関である建築大工一級技能士の資格を取得した広島の職人5名が集合。彼らの言葉からは、一流の職人としての気概と誇りが伝わってくる。
大工本来の技術を習得する一級技能士
日本には、古くから地震や台風などの自然災害に耐えられる木造建築物を造る技能が発達し、大工によって継承されてきた。ところが、大手ハウスメーカーの台頭もあり、大工に求められる技術は一変。製図から材料加工、施工という大工本来の技術を身に付けずとも、設計図の指示通りに施工できれば良しとされるようになってしまった。 そこで、こうした大工本来の技術を備えた職人を資格認定しようと、昭和34年度から始まったのが、「建築大工技能士」の検定試験。伝統的な木造軸組みによる加工組立てや木造造作などの出来映えを競うもので、特に一級は取得が難しいとされている。
検定試験で作成した課題作品。製図から完成まで5時間30分(右)で作りあげなければならず、時間との闘いでもある
大工の世界で技能士が求められる背景とは?
住宅着工棟数の減少に従って、大工の数もピーク時に比べると半分以下となり、年齢も全体の3割が60歳以上となった今、伝統的な木造建築技術の継承が危ぶまれる事態となっている。 一方で、法整備を含め、学校をはじめ公共施設を木造建築で建てるという時代の流れがある中、確かな木造建築を建てられる技術をもった大工の必要性は高まっている。こうした背景から、20〜30年後の家づくりを考えて立ち上がったのが工務店だ。昔ながらの大工技術を備え、現場で確かな家づくりができる大工を育成するべく、広島県工務店協会では、受験準備講習会を実施している。
振隅木(ふれすみき)小屋組の高い技術がここで求められる。木と木の間にわずかなすき間もできていないこともポイントの一つ
仕事終了後は毎日練習に練習を重ねて
在籍工務店や広島県工務店協会のサポートを得て、一級技能士の資格を取得したこの5名の職人たちは、検定合格をめざして日々努力を重ねた人ばかり。大工歴10年以上の彼らでも、合格のためにはさらに高い技術を身に付ける必要があった。そこで、彼らは4ヵ月間にわたり仕事が終わった後や、休日を使って黙々と練習に取り組んだという。地道な努力を重ねた結果、全員合格できたそうだ。
木造建築の接合部分を指矩(さしがね)一本で作り上げる規矩術(きくじゅつ)※を習得
普段は鉋を使うことも少ないが、木ごしらえのために一生懸命鉋をかけていく
※規矩術(きくじゅつ)……木造大工の加工技術の一つ。木造建物の仕口・継手などの接合部分など、部材の形状全般を「規」および「矩」によって作り出す手法。「規」はコンパス 、「矩」は曲尺(かねじゃく)、指矩(さしがね)や 定規 を意味する
練習で作った課題作品は 最低でも10個以上
IKE HOUSE 吉川 崇さん(31)
難しかったのは制限時間内での作業完了
株式会社ネストハウス 梶本 茂学さん(46)
練習で気づかされた手道具の持ち味
建築大工一級技能士の検定合格に向けて、試験工程を10回以上、単純計算で50時間以上は練習をしたという吉川さん。ベテランの梶本さんでさえ、「最初は時間内に課題を終わらせることができなかった」というほど難しい技術を身に付けることは、並大抵の努力ではなかったはず。それでも彼らはヘトヘトになるまで練習を続けたことは、大工としての自信を深めることにつながった。 「電気道具ではなく手道具の知識が増え、実際に現場で使えるようになったことが、私にとって一番の収穫でした」と語るのは政木さん。以前は、「電気道具に比べて鉋や手鋸などの手道具は時間がかかり、仕事には使えない」という固定概念があったが、これをきっかけに手道具を使い始めたところ、仕上がりが美しい上、時には電気道具よりも早く仕上がることもあるのだとか。例えば、鴨居など造作材や小さめの材料を仕上げる時は、一般的に使われるサンダーという電動の研磨機よりも、鉋をかければすぐにきれいな表面仕上げが可能に。「この技能士検定を通じて、自分の仕事の幅が広がりました」という政木さんからは、自らを高められた喜びが伝わってくるようだ。
使いこなせる大工は少ないという罫引(けびき)きだが、仕上げの精度を高めるために必要な道具
墨付けの作業風景。墨指(すみさし)と墨壺を使い、加工する線や印を正確に付ける
一口に鑿(のみ)といってもたくさんの種類があり、部位によって細かく使い分けている
身に付けた高い技術を仕事に生かせるのが喜び
株式会社大喜 青迫 智彦さん(38)
毎日の練習を通して 手道具の良さを再発見
橋本建設株式会社 政木 稔さん(38)
身に付けた大工技術を今後の現場に生かして
竹田さんは、「指矩を使いこなす規矩術の習得で、大工としての腕をさらに磨くことができました」と、確かな手応えを感じている様子。そして、「以前は現場で鉋をかけることはあまりなかったのですが、練習を重ねることで新しく技術が身に付き、普段の仕事にも生かせるようになったことが一番うれしかったですね」という青迫さんの言葉には、大工としての誇りが感じられる。 これからの家づくりを背負って立つであろう5人の一級技能士たち。彼らの高い技術は、現場での確かな家づくりにしっかりと生かされていくことだろう。
鉋の刃先を本体から外して合わせ、両方の刃の先端がぴったり合っていればベストな状態
鉋の刃合わせは、金槌で軽く叩いて微調整。切れ味を保つために必要な作業
常に精度の高い仕事をするためには、使う道具のこまめなメンテナンスが大切
検定が大工に必要な規矩術を学ぶ良い機会に
橋本建設株式会社 竹田 真司さん(35)