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応急仮設木造住宅


技術力と全国ネットワークを駆使した組織力

災害時に対応できる地域工務店の底力

 

東日本大震災をきっかけに、災害時に必要な仮設住宅を被災地の工務店と大工の力で作ろうという取り組みが始まった。
これを可能にしたのは地域工務店の技術力と全国ネットワークだった。

 

 

災害時に工務店と大工が対応できる全国組織を設立

 

 

東日本大震災の際、被災地域に建てる必要のあった「仮設住宅」は、同震災以前に仮設住宅の建設を国と締結しているプレハブ建設協会が備蓄していた2万戸をはるかに超えた。

 その足りない戸数をプレハブ建設協会の中でも積水ハウス株式会社や大和ハウス工業株式会社といった企業が自社の製品を仮設住宅として供給することになったが、それでも足りないという状況。そんな中、全国の工務店が加盟するネットワーク「一般社団法人JBN」が、工務店と大工も仮設住宅を建設できないかと立ち上がり、国交省や林野庁、一般社団法人住宅生産団体連合会(住団連)に掛け合った。その結果、プレハブ建設協会が担当する3万戸のうち300戸程度の建設準備の打診をもらい、最終的には福島県で700戸の「木造」の仮設住宅建設を可能にした。

 このことがきっかけとなり、全国各県で、災害時における「応急仮設木造住宅」の建設等を目的とした災害協定の締結に踏み出し、前出のJBNと全国建設労働組合総連合(全建総連)の2団体で一般社団法人全国木造建設事業協会(全木協)を設立。各県の自治体との協定の締結に務めている。

災害時に備えて学ぶ「応急仮設木造住宅」

広島県ではこの度、2013年5月に広島県と全木連で協定が結ばれ、災害時には県の要請に応じて直ちに応急仮設住宅の着工に取り掛かれることになった。それを踏まえ、2014年1月18日に会員各社が施工に備えるための講習会を実施。前半は座学で、この取り組みの意義を学び、後半は実際に応急仮設木造住宅を建設した。
※当日は骨組みまでの段階を建設


県下最大7万棟被害の恐れ広島県も全木協の対応に期待

 

初めに、広島県土木局住宅課課長宮﨑氏が「災害発生後、ただちに被災者の生活の場を確保することが非常に重要なことであると考えまして、この協定を締結いたしました。災害時において、より迅速な対応が可能であるとともに、地元産材による地域の工務店の皆様のお力を生かした被災者の生活再建が円滑に進むことを大変期待しております」と締結の重要性を述べた。また、南海トラフなどの巨大地震が発生した際の広島県内の被害予想は最大7万棟近いとし、「今回の講習会のような平時の準備活動は、広域かつ大規模な災害時においても地域の力を生かして対応できる体制の構築につながるものであり、大変意義深いことと考えています」と締めくくった。

 

 

被災地の工務店と大工両者の力が重要

 

工務店と大工の組織がこの締結に取り組んだ意義を広島県工務店協会の河井会長はこう話す。「大工さんと工務店が一緒になって力を合わせれば、最小限の打ち合わせで性能の良い木造仮設住宅を建てることが可能なのです。その証拠に、今日集まった大工さんは今日建てる仮設住宅の図面も見ていません。ほとんどが初めて顔を合わせたメンバーで、そこで図面が渡され、あうんの呼吸で役割分担しながら建てていく…。それが日頃から木造住宅を建設するうえで培った技術であり、日本に伝わる木造軸組在来工法の素晴らしさなのです。この素晴らしい技術を、被災者のために存分に使わせて欲しいと考えています」。

 

 

被災地で雇用しお金を落とす仕組み

 

 また、被災地を復興させるには、被災地で雇用を生み、お金を落とすことが重要だと言う。実際に東日本大震災の際には福島で被災した大工が800人集まった。雇用が生まれると、日々の生活に活力が生まれ、経済も回り始める。被災した地元の工務店と大工が仮設住宅をつくることを可能にした今回の取り組みには、こういった意義もあるのだ。

 

広島県の迅速な対応と広島県工務店協会の組織力

 

今回の“応急仮設住宅を工務店と大工が木造で建てる”という協定を通して、官民が繋がりました。これは今までの常識を打ち破ることであって、地域工務店、そして大工が大手の下請け一辺倒にならず、自ら仕事を作り地域に働きかけていくきっかけになったと思います。


 そして、公共建築物の分野に関しても、これからは工務店が施工を請け負うことができる足掛かりにもなりました。この広がりは、年々数を減らしている「建築大工」の活躍の場を広げ、技術力の向上にもつながります。そして最終的にはそれが、エンドユーザー様に向けて、良質な家を適正価格で提供することに繋がるのではないでしょうか。こうして工務店と大工は進化し続けていかなくてはならないのです。

 

 

日頃培われた技術を遺憾なく発揮

 

後半の実習では、橋本建設株式会社の河野専務の指揮のもと、実際に応急仮設木造住宅の建設に取り組んだ。河野専務は、東日本大震災の際、実際に木造応急仮設住宅を建設した株式会社エコビレッジの研修に参加。そこで得た知識をもとに陣頭指揮を執る。施工前後の朝礼・終礼も含め3時間半という短時間に完成させた手際のよさに驚く。しかし、「今日は工程ごとに止めて確認しながらやっているけど、本番ならもっと早くできるよ」と参加した大工は言う。図面を都度確認する大工の姿もなく、全ての材に記号が振ってあり、どこにどの材を使用するかが大工の頭に全て入っている――。これが木造軸組在来工法であり、その技術をもっている大工の強みだ。
 今回の実技講習を通して、「もしもの時に応急仮設住宅レベルの木造建築には即対応できる」という技術力と組織力を再確認することができた。

 

 

応急仮設木造住宅における施工技術等講習会実習

 

 

今回の取り組みが導いた地域工務店と大工の未来

広島県は全国で11番目にこの協定を締結。比較的災害が少ないと言われている地域での早い段階の締結に、県の危機管理の対応の速さと、広島県工務店協会の組織力を感じる。


 「今後は全国47都道府県全てで協定を結ばせていただきます。全国各地どこで災害が起きても、地元で対応ができ、それでも人手が足りないときには、この全木協の“全国ネットワーク”を生かして、全国各地から大工や資材を集めることができるのです」。と河井会長がその組織力と今後の展望を語ってくれた。

 

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