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広島三原地区木造応急仮設住宅現地ルポ

 [平成30年7月西日本豪雨災害]広島三原地区木造応急仮設住宅現地ルポ

プレハブ型の応急仮設住宅をイメージして、現地を訪れた誰もが、きっと驚かされる風景がある。広島県産の木材が見せる優しい質感、香り立つような表情は、まさに木の家ならでは。
避難生活という厳しい環境だからこそ、居住性能にこだわる住まいの実態をレボートした。

 

断熱・防音施工を徹底初の広島型応急仮設住宅

広島県のみならず、西日本全域に甚大な被害をもたらした豪雨災害は、地震や台風の影響が少ない地域と言われたエリアに、新たな弱点を突きつけることになった。今回の広島県での応急仮設住宅の建設第1号となった三原市においても、建物の全壊・半壊被害が顕著となり、迅速な供給が求められていた。

「福島・熊本で研修を積んだ私たちにとっても、実際の現場を経験するのは初めて。初動の遅れは命取りを合言葉に作業を進めましたが、暑さも尋常ではない季節。多くの苦労があり、遅れ気味の工程に最初はとまどいましたが、チームワークで取り戻すことができました。改めて応急仮設住宅は、スピードが最重要課題と実感するばかりです」と河井さん。「広島県産木材」「地元の職人」をテーマに掲げ、今回の建設は地元貢献ほぼ100%を達成したという。

住まいの居住性能は、通常の住宅でも当然だが、避難生活という非日常下でストレスなく暮らせるために、夏は涼しく・冬は暖かくの快適性は必須とし、最大限の断熱・防音工事を徹底している。基本仕様として、壁には100mmのグラスウール、床は発泡スチロール、天井は200mmのグラスウールを採用して、住まい全体の断熱性を高めている。また被災者同士が共同で生活するため、防音構造にも配慮した。特に住居の境界となる界壁には、隣接する部分へ距離を持たせるよう、間柱を互い違いとし、物音が伝わりにくいロックウールを断熱材に使用した。また共同住宅の安全性を考慮、万が一の火災にも燃え広がらない対策として、境壁にはプラスターボードを隙間なく二重に敷き詰めている。

県産材もふんだんに使い、土台にはヒノキ、構造材にはスギとヒノキ、外壁はスギ、室内の床はスギ、縁側はヒノキなど、木造住宅ならではの癒やしと気持ち良さを実感できるつくりにこだわった。その使用量も100m³に達している。高品質な木造住宅群を、工期1カ月で完成させた、地元工務店の実力に感心させられる。

 

工事には地域の大工職人が集結して協力。職人同士のコミュニケーションを図りながら連携・役割分担も



内装の壁・天井工事にはハイレベルの断熱・防音仕様を採用。仮設のイメージではなく一般住宅同様の施工

 


基礎は木杭。全国から取り寄せたヒノキを使っている。土台は広島県産材のヒノキ。職人の技術力が発揮される

 


各棟の住戸へスムーズにアプローチできるよう、なだらかな木造のスロープを設置。高齢者の利用にも配慮して、木製の手すりも確保


基本となる間取りは3タイプを用意。1人住まいには6坪(1戸)、夫婦ならコンバクトな使い良さに余裕の9坪(2戸)、家族には12坪の広さを確保(1戸)。各棟に4戸を基本とした

 


建設地は広島県三原市西町惣定・あやめケ丘団地住宅8棟合計31戸+談話室1戸、ゴミボックス木造平屋建敷地面積4683.6m²延床面積940.5m²

 


工事中は台風や雨も心配されたが、晴天に恵まれ無事に終えることができた。木の美しい表情が緑に映える

 


共同のゴミ置場もスギをあしらうゴミボックスを設置。木造住宅棟と違和感なく馴染むためのこだわりも配慮

 


1棟に4戸を配置。玄関扉を奥側へ設計、住戸内が目に触れにくいため、適度なプライベート性も確保した

 

1世帯住居
木造ならではの居住性能が避難生活のストレスを軽減


フローリング床のスギ目と青畳に癒やされる空間。床は完全にフラットのバリアフリー。鴨居部分は釘打ちやピン留めが可能な仕上げに


三原市に供給された今回の応急仮設住宅は、全棟の住戸が木造軸組在来工法で、職人の手仕事による木の住まい空間を実現している。県産材をふんだんに使い、中へ入ると木の風合いと香りが感じられ、従来のプレハブ住宅とは一線を画す仕上がりだ。これなら避難生活を強いられた人が、今までに近い日常生活の延長として過ごせるだろう。
全タイプに居室と浴室・トイレ・キッチンの水回りスペースが設けられ、毎日の清潔かつ自立した生活を支援できる。居室はフローリングと畳部分の段差をなくして、完全なバリアフリーとした。高齢や小さな子どもの避難者にも、配慮されているのはうれしい。キッチンはコンパクトながら収納力のあるタイプ。トイレは使いやすい洋式便器、手すりと専用コンセントも備えられた。浴室までバリアフリーとするため、ユニットバスを入れる際、床を下げ、箱型内が断熱材に覆われる設計を採用している。冬の寒さ対策も万全だ。
細かい部分の納まりや空間のつながりにも、不自然さを感じさせない。これは担当した広島県工務店協会の施工会社が、高い技術力を持つことを証明している。簡易なプレハブ構造とは違い、木造の美しさを損なわない空間には、隅々まで妥協がない。

 


キッチンはシンク下収納とつり収納を確保。換気扇と採光窓も設け、クリーンで快適な調理を楽しめるよう設計

 


和室には段違いの仕切りを付けた収納スペース。収納床にもスギ材を採用。開け閉めもカーテンで簡単に

 


居室には開口部となるサッシ窓を設置。天気がいい日には、明るい光と柔らかい風が入る、気持ちがいい空間



各居室の縁や接合部分も、ぴったりとした納まりに。地元大工の職人技で、違う素材を美しく組み合わせる

 


優れた断熱性を最大限に発揮させるため、サッシ窓の開閉部分など、細かいところも緻密に施工している

 


浴室は独立したユニットバス。シャワーや洗面台を兼ねた手洗い・鏡なども装備

 


トイレの中までスギのフローリング床を採用。洗濯機置場も設置して、洗濯時のプライバシーも確保するようにした



外には室内へ持ち込みたくないものを保管できる全戸分のストックスペース。限られた空間を広く使うことができる

 


サッシ窓から出入り可能な濡れ縁を確保。隣同士との会話も弾ませる、ベンチのような場所に

 


各住戸の出入り口には、手元を照らしたり、防犯にも役立つ照明が備えつけられている

 

Data
施工期間...1カ月
屋根...ガルバリウム鋼板葺き
外壁...スギ板張り
内装...クロス
床材...スギ板
断熱...高性能グラスウール

 

Plan
洋室と和室を配したファミリータイプは、壁で塞がれる仕切りのないオープンな空間を設計。水回りの機能もコンパクトにまとめ、普段通りに近い日常を過ごせるようにした。冷蔵庫や洗濯機の置場所も、あらかじめスペースとして確保している

 


棟ごとに換気を付けて、空気の流れを良くしながら、木づくりの性能を維持。電話が使えるよう、引き込み配電盤も設けている

 

共用談話室
避難生活を孤立させない独立した談話室棟を設置


談話室棟の外壁にもスギ板を張り、敷地内の風景と違和感なく調和する。階段、バリアフリーのスロープ、2カ所のアプローチも確保


災害の被災者は、環境の変化などから大変な心因性のストレスを抱え、家から出られない、人と関われない、そうした悩みを持つケースも多いと聞く。これも災害時に避難して暮らす、住まい環境も含めた非日常の積み重ねからだろう。

そこで過去に建設した応急仮設住宅の実例から、今回の三原市でも共用談話室を、独立した建物棟として設けている。住居棟と同様に木造の建物で、棟内は開放的な空間が広がり、誰もが気軽に集まれるよう、考慮されている。共用のトイレはもちろん、湯沸かしや簡単な調理も可能なキッチンも設置された。床はスギ板を張りめぐらせ、優しい気持ちになれる。出入り口にスロープ、フラットな床を採用して、バリアフリーの使い勝手にもこだわった。

こうした場所を活用することで、被災者同士が孤立することなく、お互いの状況や悩みを分かち合えるのは、何よりの励みになる。会話することで、自分だけじゃない、共通の自立・自活意識を育むのにも役立つ。応急仮設住宅の入居期限は、基本2年間、最大で5年間と定められている。この限られた時間を、快適に暮らし、次の生活へ前向きな一歩を提供するのが、応急仮設住宅の役割。その実現に心からの拍手を贈りたい。

 


明るく開放的な大空間には、フローリングと畳スペース。どちらでもくつろぎながら、住民同士が語らい、コミュニケーションを楽しめる。多目的な催しや教室にも活用できそうだ


トイレは車椅子の利用者でも充分な広さ。手洗い器側にも体が支えられる手すりを

 


階段・スロープへ導く点字ブロック。ハンディを持つ避難者の利用にも配慮した

 


談話室には専用のキッチンを確保。お茶や簡単な調理なども楽しめる


工務店
培った経験を本番で発揮広島の実力と連携を証明

広島県第1号の木造応急仮設住宅が無事に完成、入居者を迎えて生活も始まった。長期優良住宅施工実績を持つ担当会社、建設労働組合の職人が経験と知恵を合わせ、今後も各市町村に不足の事態があれば、結集・貢献する体制ができたと自信を見せる。


株式会社加度商


三原市にも近い尾道から参加。加度周治会長と現場監督の山脇さん、橘高さん。「個性豊かな職人の意識統一を徹底。現場でも声かけを大切に、分かりやすい伝達を心がけた」


橋本建設株式会社


今回の主幹事会社。橋本英俊社長と現場監督の藤林さんは「競合する会社が緊急時に結束、終わればまた戻る役割や意義を実感。工程と職人の管理もいい経験に」と笑顔を見せる


株式会社大喜


豪雨災害を経験した安佐南区から参加。柿田勝司社長と現場監督の吉岡さんは「工務店協会が尽力され、体制を準備してきた成果。長く使える仮設住宅が完成」と満足を隠さない

マスダランドビル株式会社(M’sホーム)


県北の三次市から参加。増田茂典社長と現場監督の小谷さんは「目先に追われる日々の中、貴重な経験になった。個性と相性を評価して、大工を配置できたことも自信に」と振り返る


現場事務局


小林株式会社の若林さんと橋本建設株式会社の荒谷さん。現場のサポートを担当。「熱中症予防のため1日80リットルの麦茶を準備。安全管理に努めた」と気遣いを見せた


一般社団法人広島県工務店協会


加度会長、河井前会長、河野参与がそろい、「プレハブと比較しても、短工期で居住性が良く、今後は木造住宅が選択肢の1つに。自己満
足でなく、入居者の評価が楽しみ」と襟を正す

 

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