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今後のエネルギーと家づくり

東北地方を襲った東日本大震災で、クリーンエネルギーへの転換が叫ばれる今、
家づくりにおいてもエネルギー問題とは無縁ではいられません。そこで、
広島県工務店協会に所属する8名の皆さまに集まっていただき、
これからのエネルギーと家づくりについて大いに話し合っていただきました。

確かな家づくりは 土地探しから慎重に Part1

司会者

司会者

今回の東日本大震災を受けて、私の周りでは「木造の家は大丈夫?」という不安を抱いておられる方も少なくありません。また、「家を建てる時には地盤調査だけでなく、地盤改良までした方が良いのか」、「港の近くには家を建てないほうが良いのか」といった声も聞かれます。 そこで、まずは建築に携わっておられる皆さまに、これからの家づくりはどうあるべきかについてお聞きしていきたいと思います。

河井氏

河井氏

この度の東日本大震災では、地震、津波、原子力発電所の事故に加えて、液状化による被害というものが非常に大きい問題となっています。これは東北3県だけではなく、千葉県や神奈川県なども液状化の大きな被害を被っていますが、実は、広島県も液状化と無縁ではありません。五日市の海岸沿いで広大な埋め立てを行っていますが、もし大地震が起きれば、ここも液状化して地盤沈下を起こす可能性が大きいのです。
大前研一さんも、「高台に住んで、低いところに通いましょう」ということを提言されていますが、これからは住む場所をもう少し大局的に見て、安全な場所に家を建てることを重視しなければならないでしょう。
広島であれば、お客さまから「住む場所としてどこがいいですか」と尋ねられた時、我々工務店の責任として、「埋め立て地には家を建てないようにしましょう」ということくらいは言っておくべきではないかと、私は思うのです。

司会者

司会者

家を建てようとする場合、まず土地探しから始められるお客さまの方が多いのですか?

髙原氏

髙原氏

血縁者の土地があるということでない限り、ほとんどのお客様は土地を持っておられず、新たに土地を求められる方が圧倒的に多いですね。
しかし現実的には、広島の市場ではお客さまが選べるほど土地があるわけではなく、土地探しに困っておられる方がほとんどというのが現状です。そんな中で、新築の場合はもちろん地盤調査をしますが、例えば中古住宅を購入してリフォームする場合、購入する時点ですでに地盤が沈下を起こしている物件も実際にあります。
古い住宅は経年変化で沈下していたり、建築のやり方も時代とともに変わっているため、建てる前の地盤調査をしていない住宅があるのもやむを得ないことかもしれません。

塩田氏

塩田氏

当社は県北地域にあり、都市部に比べれば土地は豊富にある方ですが、傾斜地が若干ある地域です。よって、「地震が起きた時に、地盤が崩れて家が傾く危険性がある場所に家を建てるのはやめましょう」ということくらいが、お客さまに対して言えることでしょうか。当然、家を建てようとするお客さまは、「新築であれば、震度6強の地震には耐えられるはず」という認識をお持ちです。
我々の営業エリアでアドバイスできるとすれば、建物のことではなく、地震が起きても比較的安全が保てる土地かどうかということですね。土地がしっかりしていなければ、いくら建物が丈夫でも意味がないですから。

司会者

司会者

増田さんも同じ営業エリアですよね。

増田氏

増田氏

最近、自主的に耐震の講習を受けるなどして自分でも耐震への意識を高め、周囲にもその意識を広めたいと思っているのですが、広島は全国的に見ても地震の少ない地域です。
お客さまに耐震診断を持ちかけると興味は持たれるのですが、費用がかかることを伝えると「それならいらない」となることが多いのです。大震災後であっても反応は鈍いですね。また、「たとえ地盤沈下などが起きても、住宅瑕疵保険に加入しているから大丈夫」と考えておられる方もいらっしゃるかもしれませんが、これも絶対に大丈夫とは言い切れません。
私が実際に経験したケースですが、瑕疵担保履行法施行前の任意の瑕疵保険に入られていた方の築7年の家が、不同沈下で傾いてしまいました。この傾きが分かったのは、家の2階部分のリフォームを当社に依頼されたことがきっかけでした。私たちが家に入ってみると、なんだか後ろに傾いているような不安定さを感じたため、計測してみると約5センチも片方が沈んでいたのです。工事を手がけた会社はすでに倒産していたため、結局、当社で約1千万円かけて家の傾きを修正する工事を行いました。最終的に、費用は全額瑕疵保険で支払われたのですが、このやりとりも大変でした。
保証会社※1は、「地盤を原状に復するまでは保険で支払うが、将来の地盤沈下防止費用分については保険適用はしない」と主張しました。そこで約款を見てみると、確かにそう読み取れるのです。実際に、このことで揉めているところもあるようです。私も修復工事の時、実際に土地を掘って地盤を補強するところを見ましたが、土も良く、それほど地盤が悪いようには見えませんでした。今まで自分たちが見てきた土地と比べても、良いと判断できるような土地で、当初の地盤調査でも、「普通のベタ基礎でOK」という判定でした。ただ、その当時の任意保険というのは、調査結果はあくまで参考にすぎず、その判断は瑕疵責任を負う施工会社等の裁量に任されていました。
このように、地盤が良くても沈下を起こす場合もあるわけで、お客さまに対して、「瑕疵保険をかけているから心配ないですよ」などとは絶対に言えることではないのです。万一に備えての保険をかけることは間違いではありませんが、絶対に安心というわけではありません。保険を過信してはいけないということは頭に入れておくべきでしょう。

石川氏

石川氏

耐震性だけでなく、強い地盤が大事

当社も、土地探しからされるお客さまが大半です。岩国も、広島と同様に埋め立て地が多いのですが、幸いにして液状化現象が起きたということはほとんど聞いたことがありません。阪神淡路大震災をきっかけに、建物に対する耐震基準は格段に高くなり、その後に起きた耐震偽装事件で、構造計算における基準も上がりました。これらの高い基準をクリアできなければ、建築確認でOKが出ない仕組みが出来上がったわけです。
予算やお客さまの要望に関わらず、耐震性を含めた安全な家づくりというものが、現在では大前提にあります。これはハウスメーカーも我々工務店も同じです。そのため、まず行うのが地盤調査。地盤が軟弱であれば、杭を打つなどして補強を行い、安全な地盤の上に家を建てられるようにしていきます。この時、何十年も前に建てられた家を新しく建て替えるにあたって地盤調査を行うと、補強の必要性が判明する場合があります。お客さまにとっては耐震補強の費用がかかってくるため、「これまで住んでいたけれど、地盤沈下や傾きといった問題は一度も起きなかったのに…」ということを言われる方も中にはいらっしゃいます。しかし、耐震補強をしなければ建築確認が下りず、瑕疵保証も付かないため、家の建築そのものが不可能になりますから、その点は説明をして納得していただいた上で工事を行います。
私の実感として、多くのお客さまは、「耐震面については、万全な対策が当然なされているだろう」という認識を持っておられるように感じています。

増田氏

増田氏

この前も、3~400万円の工事費でできる免震構造の家についてテレビで紹介されていました。確かに、免震構造であれば地震で建物は壊れないかもしれませんが、液状化で地盤が崩れてしまえばどうにもなりません。

佐々木氏

佐々木氏

工務店として、家を建てる場所については、「津波の被害を受ける可能性の低い高台に家を建てたほうが良いですよ」というアドバイスができますが、地震に関しては、新しい耐震基準を設けて昭和56年に改正された建築基準法をしっかりクリアしておくことくらいしか、現実的にはできないのではないでしょうか。

司会者

司会者

エネルギー問題と家づくりの関係

今回の大震災による福島第一原発の事故で、エネルギー問題も大きくクローズアップされるようになりました。

河井氏

河井氏

工務店がエネルギー問題において唯一対応できることは省エネ対策です。関東地方ではすでに現実のテーマになっていますが、いずれ西日本でも同様の流れになるでしょう。太陽光発電やエネファーム※2などによる、環境に優しいエネルギーへのシフトと同時に、昼間に発電した電気を蓄えて夜間使えるようにする蓄電の必要性が高まってくるだろうと思います。

後藤氏

後藤氏

当社でもいろいろ勉強させていただいているのですが、よく聞くのが「自立循環型住宅」という言葉です。太陽光発電などの自然エネルギーの活用、住宅の性能を高める、高性能の設備を使うといったことで、相対的にエネルギーを消費しない、あるいは二酸化炭素の発生を極力抑えるという取り組みが行われています。工務店として、こういった取り組みの中にも入っていかなければ取り残されるのではないかという危惧はあります。
ただ、現実的にはコストとの兼ね合いもあります。例えばグラスウールを厚くして断熱の性能を上げ、熱効率を高めるという方法があったとしても、コスト面や技術面の問題があってなかなか踏み切れないということもあり、悩ましさを感じているところです。

柿田氏

柿田氏

今回の原発事故で、さまざまな問題が浮き彫りになりましたが、電気をまったく使わない生活というものは難しいと思います。よって、極力電気を使わない省エネ生活や、自然エネルギーによる発電というものは、今まで以上に重要になってくるでしょう。同時に、家づくりにおける考え方の転換も必要です。
今までは、高気密高断熱を重視した家づくりをしてきましたが、これからは夏の暑さをいかにしのぐかということも家づくりの大きな問題になっていくでしょう。エアコンの冷気を逃がさない設計、建物の構造、窓の取り方、植栽の植え方などによって暑さをしのぐなどといったことを具体的に考えていく必要があります。昔の家の建て方に少し立ち戻ることも大切かもしれません。

佐々木氏

佐々木氏

この度、天皇陛下も厚着をされるなどして節電に協力されたということが報じられていましたが、昔の人も寒ければ厚着をしてしのぎ、暑ければ薄着をして家の中で過ごしていました。日本は南北に細長い国であり、東北地方、中部地方、瀬戸内地方、九州・沖縄地方など、それぞれ気候風土が異なっています。昔の家の造り方というものは、地域に根ざした大工の棟梁が、その地域に合った家づくりをしていました。我々工務店も、基本的にそれと同じ事を大切にしていくべきではないかと思うのです。
風邪が吹く方向を計算して家を建てれば夏は涼しく過ごせるし、太陽光がたっぷり射し込む方向に窓を開口すれば冬も暖かく過ごせます。それ以上の暑さ寒さは、扇風機を利用したり、厚着をするなどして、昔ながらの方法でしのぐことも大切ではないでしょうか。省エネには、ある程度の我慢も必要だと思います。そういった提案も、工務店として行っていくべきではないでしょうか。「Tシャツ1枚で年中過ごせる家」という住宅のキャッチコピーを見たことがありますが、そのような家に赤ちゃんの頃から住んでいたら、人間が本来もつ体温調節機能が低下してしまう可能性もあると思います。

髙原氏

髙原氏

昔の家づくりへ立ち戻ることも必要

地場の工務店として、先代から行ってきたさまざまな家づくりの智恵をと工夫を、その土地にあったプランに反映していくことはとても大切です。私も工務店協会に加入し、長期優良住宅なども手がけるようになって、昔から経験的に行ってきたことが具体的に数値として実証されるようになりました。例えば、広島は夏は南西の風が吹くからこの向きに窓を開口するのだというようなことを、私は以前からプランに反映してお客さまにも説明してきました。こういったことが、長期優良住宅などでは義務付けられていますから、これまでやってきたことの裏付けができるようになり、地場の工務店として地の利を生かしたプランニングができるようになったことは大きいと思います。

司会者

司会者

増田さんは県北地域で営業される会社としてどうお考えですか?

増田氏

増田氏

私は、かつては佐々木さんと同じように考えていました。ただ、昔の人は、板場に裸足でいるという状況で冬も耐えてきたわけです。では、現代人が昔の人と同じ状況に戻れるかといえば、それは現実問題として無理な話です。よって、私は、ある程度の高気密高断熱の性能というものは確保しつつ、必要以上の快適性を求める「快楽」に対する我慢をしていくことが大切だと思います。
しかし、お客さまにいくら「快楽を求めずに節電しましょう」といっても、なかなか実行に移すのは難しいことです。
そこで例えば、電気使用量などを計測・記録する商材がいろいろ出ていますが、ある商品は、先月より電気の使用量が多いとパネル画面の氷が溶けてペンギンが海に落ちてしまうんです。そんな風に楽しみながら自然と節電できる仕掛けや動機付けの工夫を工務店サイドとしてもしていく必要があるのではないかと思うのです。

後藤氏

後藤氏

省エネとクリーンエネルギーは、工務店としても今後避けて通れない問題ですね。

河井氏

河井氏

太陽光発電とともに、自然エネルギーとして注目を浴びているのが地熱発電ですが、現時点ではまださまざまな問題があり、非常にコストが高くつきます。そのため、今のところ長期優良住宅においても地熱利用の考え方は入っていません。最小限のエネルギーコストで住める住宅をつくりましょうというのが長期優良住宅の考え方です。夏は屋根の遮熱と通気に配慮し、冬は輻射熱でできるだけ外気を遮断してぽかぽかの状態をつくりだすことができる家こそ、日本人にとって住みやすい家なのですから。

塩田氏

塩田氏

高性能住宅と省エネで仕様エネルギーを低減

この先心配なのは電気の値上がりです。今までオール電化を推奨してきましたが、お客さまにとって負担が増えるのではないか、10年後になってオール電化が正解だったと言えるだろうか、少し心配です。

河井氏

河井氏

ただ、現実的に私たちが原発から完全に離れることは非常に難しいのは確かでしょう。

後藤氏

後藤氏

すぐには難しいでしょうが、ドイツも原発から脱却しようと言っています。アイスランドや中米コスタリカは地熱発電の先進国として知られていますが、コスタリカの地熱発電の設備は日本から持っていっているのだそうです。日本はそういう技術をもちながら、自国内では使わせてもらえていないのです。火山の多い日本で、これを使わない手はないと思います

佐々木氏

佐々木氏

以前は太陽光発電の方が原子力発電に比べてコストが高くなるという計算だったようですが、こんな大事故が起きて何兆円も必要になるのであれば、太陽光発電の方が安全な上、よっぽど安くつきますよね。

増田氏

増田氏

結局、核燃料廃棄物の処理にかかるコストを勘案しないまま、原子力発電はコストが安いといって推進してきたことのツケが今回ってきているのではないでしょうか。

司会者

司会者

最後に、“地域の家守”として、地場の工務店だからこそできることとは何でしょうか。

河井氏

河井氏

この度の東日本大震災でも痛感しましたが、災害時に迅速に対応できるのは、地元に精通する工務店です。
広島においても、何年か前に台風による住宅への被害が出ました。当社では社内に対策本部を置き、「あそこの家の屋根が飛んだ」という情報を逐一電話で集め、大工さんとともに被害が出たところの応急処置をして回りました。砂袋とビニールシートを持って300軒くらいは行ったと思います。こうして緊急を要しない状態にしておいてから、後で少しずつ修理をしていったのです。近隣からはとても感謝されました。
今回の東北でも、おそらく地場の工務店の活躍があったことと思います。こういう非常時には絶対に地場の工務店が必要になるのです。職人を抱え、資材も道具も加工場も持っているのが工務店です。臨機応変に対応できて小回りも利くのは工務店しかないのです。大手のハウスメーカーでなかなかこうはいかないでしょう。

塩田氏

塩田氏

いざという時に、素早く対応する気質や技術をもっている工務店が、地域に果たす役割というものはとても大きいと思いますね。

※1 保証会社・・・・・・日本住宅保証検査機構。国土交通大臣から指定を受けた「住宅瑕疵担保責任保険法人」であり、新築、既存住宅、リフォームなどにおいて消費者を守るための保険業務に関わる
※2 エネファーム・・・・・・家庭用燃料電池の愛称。家庭で使う電気とお湯を一緒につくり出すシステムのこと

ご参加いただいた方

河井 英勝氏

河井 英勝氏

橋本建設株式会社 
代表取締役会長

柿田 勝司 氏

柿田 勝司 氏

株式会社大喜
代表取締役

石川 明 氏

石川 明 氏

株式会社ネストハウス
代表取締役社長

増田 崇 氏

増田 崇 氏

しおた工務店
代表取締役社長

佐々木 徹 氏

佐々木 徹 氏

佐々木順建設株式会社
代表取締役社長

後藤 和彦

後藤 和彦

IKE HOUSE
代表取締役

増田 茂典 氏

増田 茂典 氏

M's ホーム
代表取締役社長

高原 慎司 氏

高原 慎司 氏

株式会社ハイランド・ハウス
代表取締役社長

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