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青木宏之×和田正光 地域工務店が被災地復興へ

東日本大震災の被災地域の仮設住宅の中にはプレハブ住宅だけではなく、地域の工務店がつくる木造の仮設住宅がある。被災地域の雇用確保や仕事を生み出すと共に「地域にお金を廻す」ことを大きな目的に被災地復興に尽力する活動は、工務店が大プロジェクトを請け負う仕組みともなる全国工務店のネットワークにもつながっている。

そこで自らも地元いわき市で被災しながらも被災地復興に尽力する株式会社エコ・ビレッジ代表取締役で一般社団法人工務店サポートセンター執行役員の和田正光さんと工務店のネットワーク作りに尽力する一般社団法人全国木造建設事業協会理事長で一般社団法人工務店サポートセンター理事長の青木宏之さんにお話を伺った。

被災された地域にお金を廻したい

青木氏

青木氏

3.11の震災で広く使われるようになりましたが、実は仮設住宅というのは実は私たちの業界の言葉ではないんですね。日本赤十字(日赤)が被災者のために仮設の住宅を用意する。それが仮設住宅なんです。

和田氏

和田氏

「今後の仮設については性能や居住性は問われるようになる」 (和田)

国際ルールがある。災害が人間に起きた時の災害というのは想定しているのは戦争なんです。今回は1000年に一回の津波ですが、戦争は世界中で起きていなかった時のないものです。そこで緊急避難場所として住む場所というのが赤十字の言う仮設住宅なんです。命からがら逃げてきた人たちの命を守るという概念なんですね。そこには居住性もなければなんにもない。雨風をしのげれば良いという考えです。その基準で推し量っていくから、例えば福島のように数年で帰れるわけがないなぁという状況にはミスマッチが起こってしまう。それは止むに負えないところではあるんですね。もしかしたら30年は帰れないからそれに即した仮設を作ろうという考え方は赤十字ではできないんですね。

青木氏

青木氏

日本ではそのルールの中で提携しているのがプレハブ業界。これまで2万戸を備蓄していた。これまではその中でやっていたんですけれども、今回の震災ではそれをはるかに超える仮設住宅が必要になってしまったんですね。それで足りないということで積水やダイワといったプレハブ業界でも自社の製品を仮設住宅として供給することになった。
そこで私もプレハブ建築協会・日本木造住宅産業協会・全国中小建築工事業団体連合会(全建連)など低層住宅を建設する団体を中心に、中高層住宅から住宅設備機器類関連の10の構成団体からなる住宅生産団体連合会(住団連)の理事の一人として、「住団連東北地方太平洋沖地震緊急対策本部」の本部員として名を連ね、私たちの業界も仮設住宅の建設に加わることになったんです。
そして私たちもを全国の工務店が加盟する全建連の工務店ネットワーク(JBN)の事業支援を行う工務店サポートセンター内に東日本大震災対策本部を設置し、私たちの組織の役員で、被災地でもあるいわき市を拠点にする和田さんに本部長になってもらったんです。ですからこの和田さんが工務店の仮設住宅については日本で一番知っている人です。東北3県を統括してずっと現場で先頭に立って工務店による木造の仮設住宅を作り続けた当事者なんです。

和田氏

和田氏

褒めていただいて恐縮ですが、入口があったから仕事ができたんですね。今回私たちの業界が仮設住宅を作ることができたのは、青木さんの今までの実績や経歴が評価された部分が大きいように思います。突破口を作ってもらったんですですから、あとは命をかけてそれを広げるだけなんです。みんなは踊り手として私を評価してくださるのですが、舞台を作った人が評価されるべきなんですね。

青木氏

青木氏

そっとやるつもりが目立って仕方がない(笑)。

和田氏

和田氏

今後の仮設については性能や居住性は問われるようになるでしょう。仮設住宅の基準を作っているのは赤十字。
仮設という名前を付けている理由は、ボランティアが来ていたり、原発周辺では月12万円程度のお金が入る。避難した人たちはかわいそうだからと手厚い保護があるんです。しかしこれを長くやっていると働くことを放棄してしまいかねない。もらうことに慣れてしまう。自助努力をやめてしまうんです。建築基準法上の問題もありますが、2年間と定め、それ以降は自分の足で立ちなさいといううふうにしているんですね。あるところまでは一定の応援するからあとは自分でなんとかしなさいということなんです。
日本国民は被災者を一生面倒を見る覚悟はあるのかというと疑問です。途中までは優しいけれども、ずっと今の状態が続けばもういい加減にしなよアンタラって言い出すことは目に見えていますよね。復興財源だとか1、2年は理解してくれると思いますが、本当にこれから先ずっとお金を使い続けるとしたら怒り出しますよね。

青木氏

青木氏

マスコミやメディアの報道の影響は大きい。今は被災者に好意的ですが、時間が経てば税金の問題など日本全体の負担を報道し始めますから一気に報道が変わる可能性もあります。政治も絡んできます。ですから最終的には被災地が自助努力によって解決するしかないと考えているんですね。被災地支援も日本の国がまだまだ力があるから出来ることであって東南アジアなど世界の各地では自分の力で立て直していくしかないところも多いんです。
また、2、3年で壊すのはもったいないという話もでてきていて、国交省も最初から定住型の住宅を作っていかなければならないということにもなっています。

青木氏

青木氏

今回の震災では被災された大工など職人がたくさんいるんですね。そういう人たちにお金を落としたいということが根本にあるんです。仕事があれば、援助や支援ではなく自分の手で稼いた賃金が発生しますから威張ってそこにいることができる。お金があれば地域にもお金が回るようになる。東京にお金が集まってしまう仕組みとは根本から違うんですね。地域の材料を使って地域の大工が手作りで作っていく。これだけをやりたかった。

福島では800人の大工を集めた。避難所にいて何もすることがなかった人が募集の説明会では泣いて喜んでくれたんです。道具が流された人には道具も揃えました。こういうことは業界が自然にやらなければいけないことだと思うんです。しかし、そういった仕組みが今まで無かったんです。

被災直後から情報収集と対応の検討を進め、国交省に手書きに図面を持っていってこれで予算内でやるからと掛け合ったんです。国産材を使うからと林野庁にも掛け合いました。住団連の理事会では1000戸はできると掛け合った結果、プレハブ協会が担当する3万戸のうちから300戸程度の建設準備の打診を頂きました。1パーセントです。これまでやったことがないんですから、それくらいならということだったんでしょう。またそんなに良いものを作るとは思っていないからこそやらせてくれたんだと思います(笑)。

阪神淡路の震災以来の協定で県とプレハブ協会が自動的に動き出すところにはじめて工務店が直接入り込むことができたんです。

和田氏

和田氏

青木さんは理事の一人ですから俺たちもやるぞと言えば断る理由はないんですね。今まで全建連にはいろいろな会長がいらしゃったんですが国交省から大工の手配をと言われればそれで終わっていた。手伝うといっても自分の手でやると言わなかった。今回は自分たちがやると言った。それだけの差なんですね。

そこには2つのハードルがあったと思います。一つは値段。もう一つは工期です。着工から4週間で作る必要があった。途中からは3週間。これまでさまざま多くの家をつくってきましたが、4週間で家を建てたことはないんです。未体験ゾーン。しかしできないと言ってしまえばそこまでです。やれるとしか言えませんでしたし、その覚悟もありました。

青木氏

青木氏

私も見込みもないまま大丈夫だと言ってしまった(笑)。プレハブのメリットであるコストの安さと工期の短さを木造、しかも高性能で。もしかしたら値段と工期の問題でやんわりと断られたのかもしれないけれども出来ると言ってしまった。また、それができなければ大変な問題にもなりますし、300以上の追加はなかったでしょう。現場はしっかりと成し遂げてくれた。

和田氏

和田氏

しっかりと出来なければやっぱり木造では無理だったんだなぁ、ということで今後につながることもなく終わってしまったんだと思います。

まず、地域優先で大工を揃えた。被災された人たちがなにがほしいかというと、やはり仕事。しかし、なんでもいいわけではなく自分たちにしかできない、人や地域に役に立つ、生きがいを持って取り組める仕事でなければならないんです。避難所で滅入っていた人たちが仕事を始めるとどんなにきつくてもどんどん生きた顔になっていく。

青木氏

青木氏

大工の手間賃も2万円に設定したんです。それで多くの大工が来てくれた。下請けではなく直接雇用。他では7000円のところもあったんですが最終的にはこの2万円が通り相場になりました。大工の中には給料振込が初めてという人もいて、直接じゃないと貰った気がしないという人もいましたが本当に喜んでくれた(笑)。

和田氏

和田氏

工務店が工務店を使うと下請けになってしまいます。まったくの横一列。電気も水道もすべての職人を直接雇用する仕掛けを作ったんです。

青木氏

青木氏

労働者の派遣は禁止ですから、全国建設労働組合総連合(全建総連)から唯一合法的に労働者供給事業として供給してもらい重層下請けの仕組みをなくしたんです。

和田氏

和田氏

「地域の再生に全力を尽くしていきます」 (和田)

大規模な建築物も木造建築にしていこうという大きな流れがあります。

しかしゼネコンは木造を知らない。工務店はでかい仕事ができないのがこれまででした。今回の震災で作ることができた工務店が大きな仕事ができる仕組みを活用することで工務店も今後は大きな仕事にトライしていくことができるんです。仮設住宅をやりました。困った人を助けましたで終わらしてしまったんでは何をやったんだかわからない。1000年後にまた頑張りましょうでは仕方がないんです。また工場で木材をプレカットすることができたのは大きいですね。それがなければこれだけのことはできなかった。

今回の仮設住宅作りは工務店が大きな仕事ができる仕組みになり得たと考えているんです。

私も最初は600戸も作るとは思っていなかった。300戸でもビビっていたんです。それでもなんとかやり遂げることができて大きな自信になった。工務店の可能性を感じることができたんですね。今までやろうとするときに各県に行き渡る仕組み作りを行ってきた。しかしその自信は私だけのことではないんです。仕掛けを普遍的にすることによって志があればできるということを証明していくつもりなんです。一工務店ではできなくても、みんなでやればできる。

地域型復興住宅やグループホームや集会所、公共施設など大型プロジェクトを地域の工務店が請け負う経験が全国木造建設事業協会(全木協)になったんです。

雇用を作っただけでなく平時でも応用できる仕掛けができた。工務店がつながっていく仕組みです。つながることで次の備えにもなる。いつもやっていれば800人や1000人をさっと集めて非常時にも対応できるんです。一工務店が捩り鉢巻でやっても100人集めることも無理なんです。

青木氏

青木氏

今後はネットワークを全国の地域に広げていきたいですね。一社で何百棟分の材料は集められない。今から4年前にサポートセンターを設立したのはそういった事情があるからです。それをさらに進めていく。私も40年工務店をやっていましたが、日本の住宅づくりの主役は工務店ではなく住宅メーカーが主役といった感じがあります。

しかし実際は50パーセント以上を地域の工務店が作っているんです。それでも主役ではないイメージがあるのはこれまでまとまったイメージが集約されてこなかったからなんですね。

ですから、地域で役に立つのは地域に根付いた工務店だということ再認識してもらえるようにしていくことが重要です。

また地域の工務店が頑張っていけるような仕組み作りを行っていく。これまでそのような仕組みがなくバラバラだったんですね。地域の工務店が頑張る仕組みがしっかり出来ないと職人が育たない。職人が育たないといくら偉そうなことを言ってもこの業界はなくなってしまう。2010年の国勢調査では一時は90万人くらいいた技能者は40万人を切ってしまっている。しかも60歳以上が15万人。これでは日本の家は守れない。中小の工務店が頑張れる仕組みが重要なんです。

和田氏

和田氏

今後、被災地では個人の家をはじめ県営や市営など再建する仕事が多く出てくる。みんなで力を合わせて地域再生に力をいれていきたいですね。青木さんは全体を、私は私の仕事をしっかりとやっていく。やらなきゃいけないことはたくさんある。地域の再生に全力を尽くしていきます。

ご参加いただいた方

青木宏之

青木宏之


和田正光

和田正光


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